夏休みが始まりました!みなさん、いかがお過ごしでしょうか?平岡中央教室担当の小中谷です。
受験生にとってまとまった時間を使って復習できる最後のチャンス、それが夏休み。2学期が始まると、学テABC、定期試験、すぐに冬休みが来てあっという間に受験を迎えることになります。夏を制するものが受験を制する、この夏休みで土台をしっかりと固めておきたいところです。完成の域に達するまで半年、悔いの残らないよう精一杯指導して参ります。
さて、本日は「完成までにものすごく時間がかかった」もののお話をさせていただきます。
~中国の歴史書ができるまで~
まず、歴史書を編纂する意義から説明させていただきます。
中国の歴史は王朝交代のくり返しです。新しい王朝には前の王朝が残した記録を「紀伝体」(※①)というスタイルにまとめる伝統がありました。前の王朝の記録を残すことで、新しく中華の地を支配する正統性をアピールすることになるのです。その歴史書を「正史」(※②)といいます。
※①「紀」は各皇帝の治世の記録、「伝」は代表的な人物の伝記。
※②「正」統性を示す歴「史」書。
正史編纂のベースとなる史料
1、起居注(ききょちゅう):皇帝の言動をまとめたもの
2、実録(じつろく):起居注をコンパクトにまとめたもの(とはいえ結構ボリュームはあります、起居注は実録編纂後破棄されるのが通例です)
3、正史(正史):実録、そしてその他史料をまとめたもの。札幌市なら中央図書館で閲覧が可能です。
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数百年の歴史、短期間でまとめられますか?
漢がおよそ400年、唐およそ300年、宋およそ300年、明およそ300年。これだけの長い年月の歴史をまとめるというのは一朝一夕でできるものではありません。ちなみに宋の歴史をまとめた『宋史』は約3年、元の歴史をまとめた『元史』は約1年で完成しております。
ところで、300年以上続く王朝の歴史を3年でまとめられるものなのでしょうか?その答えはNO。実は、『宋史』も『元史』も非常に評判が悪い歴史書なのです。その理由は「校正」、つまり史実のすり合わせをしなかったことにあります。歴史書編纂はぼう大な数の史料とそれをまとめる大勢の官僚がいますから、一つの事件でも多数の人間が扱えば事実に矛盾を生じる可能性も出てきます。そんなケースがぼろぼろと...。
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『明史』、構想から刊行まで
では、明朝の正史『明史』刊行までをダイジェストにまとめます。
1644年 明朝滅亡
1645年 明史館設立(さあ、明史つくるぞ!)
1679年 編纂開始(あれ?明史館設立から34年たってますけど...)
1739年 明史刊行
ざっくりと年表にしましたが、構想から刊行まで100年近く経過していることに気づきましたか?
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正確さを追求せよ
明が元の歴史をまとめるのに費やした年月はわずか1年。やっつけ仕事だったため、中身は目も当てられない出来(それでもそれが現代に伝わっています)。清はそんなことはしませんよと、正確無比な歴史書編纂を目指します。
明史館が設立されてから編纂が開始されるまで30年以上が経過しています。史料収集もそうですが、復明運動や大規模反乱(三藩の乱)など不安定な、というより王朝の存続そのものに関わる大事件が勃発、歴史書の編纂よりも国内の安定を優先したため編纂開始が遅れます。
時の皇帝は中国史上最高の名君とされる第4代康熙帝(こうきてい、在位1661年~1722)です。血を吐くまで勉強を止めなかったという逸話をもつぐらいの学問好きなだけでなく、熊をも倒すなかなかの武闘派。明史「編纂」開始の時、彼は25歳。正確無比な歴史書編纂を目指します。しかし、作業は遅々として進みません。真面目な人物ほど後世の評価が気になるもので、いい加減な仕事をしたくはなかったのでしょう。編纂に携わる官僚たちはたまったものではなかったと思いますが...。
編纂開始から32年後の1717年康熙帝64歳。まだ明史は完成していません。康熙帝は「まだまだ誤りが多い。私が生きている間に完成させなくていいからとにかく正確な歴史書を」と声明を出します。いい加減な歴史書を作った、という誹りは受けたくないですから。
結局康熙帝が生きているうちに明史が完成することはなく、孫の第6代乾隆帝の治世1739年、編纂開始から60年目にしてようやく刊行にこぎつけたのです。構想から実に96年、歴史書に正確さを追求するとここまで時間がかかるものなのですね。
※実は日本には編纂開始から刊行まで260年以上かかった歴史書があります。ヒントは水戸黄門です。
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できたと思ったものでも必ずもれはある、だから検証
元がまとめた『宋史』は量が多すぎ、明がまとめた『元史』は雑すぎる。本来、中国の史書編纂は、王朝の威信をかけた仕事であるはずなのに、短期間でいい加減な仕事をした結果、酷評される歴史書として後世に残ることになりました。しかし、清はその轍
は踏まずに、時間をかけて丁寧に正確に仕事をした結果、高い評価を受けることになる歴史書『明史』を残すことができました。
完成を急ぎすぎると、どこかでボロがでるもの。勉強も同じではないでしょうか。完成度を上げるためには、まず問題点を見つけ検証、そしてそれをアップデートし次の作業へ。しかし、人間は忘れる生き物ですので一定時期が来たら戻って反復。そこでもまた問題点が見つかるかもしれない。そして、それをまたつぶしていく。これらの作業を地道に続けた結果、完成度が上がり大きな成果がうまれるのです。
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